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地方が抱える課題は、人口減少、少子高齢化、経済停滞など、多岐にわたります。しかし、地域ブランディングを成功させ、活気を取り戻している地域も存在します。地域ブランディングとは、その地域が持つ独自の価値や魅力を再発見し、磨き上げ、広く発信することで、地域のイメージ向上、経済活性化を目指す取り組みです。本記事では、地域ブランディングの重要性、成功へのポイント、進め方を解説します。
地域ブランディングとは?なぜ今、重要なのか?
地域ブランディングとは、地域が持つ歴史、文化、自然、産業、人材など、あらゆる資源を総合的に活用し、その地域ならではの「らしさ」を明確にし、魅力的なブランドイメージを構築・発信する活動です。地域ブランディングが今重要性を増していることには大きく5つの理由があります。
地域のイメージ向上による観光客誘致
地域の魅力を効果的に発信し、国内外からの認知度を高めることで、観光客誘致につなげます。例えば、美しい自然風景や伝統工芸品、地元の食文化などをPRすることで、その地域ならではの「イメージ」を確立し、人々の関心を惹きつけます。
地域住民の誇りや愛着の醸成
地域ブランドを活用した商品開発やサービス提供、観光振興などを通じて、地域経済の活性化を図ります。地域ブランドを冠した商品は、付加価値がつきやすく、高価格での販売も可能になります。また、観光客が増えることで、宿泊施設、飲食店、土産物店など、地域経済全体に波及効果をもたらします。
地域存続のための雇用創出
地域ブランドへの共感を高めることで、住民の地域に対する誇りや愛着を育み、地域コミュニティの活性化につなげます。地域ブランドは、住民が一体となって地域を盛り上げていくための共通の目標となり、地域コミュニティの絆を深める役割も果たします。
地域経済の活性化
地域ブランドを活用した新たな産業やビジネスを創出し、雇用機会を増やすことができます。例えば、地域産品を使った加工食品の開発や、観光客向けの体験プログラムの提供など、地域ブランドを活かしたビジネスは、新たな雇用を生み出す可能性を秘めています。
移住促進による人口流入
地域の魅力を発信することで、移住者を呼び込み、人口減少に歯止めをかけることができます。特に、リモートワークの普及により、地方への移住を検討する人が増えている今、地域ブランディングは移住促進の有効な手段となります。
企業や商品ブランディングとの違い
地域ブランディングは企業ブランディングと似ていますが、大きく3つ異なる点があります。
1.ステークホルダーが多様性であること
地域ブランディングには、行政、地元企業、住民、NPOなど、多様なステークホルダーが関わります。そのため、それぞれの立場や意見を尊重し、合意形成を図ることが重要です。ワークショップや意見交換会などを通じて、多様なステークホルダーが参加できる場を設けることが必要になります。
2.ブランド対象が広範囲であること
企業ブランディングは特定の商品やサービスを対象とするのに対し、地域ブランディングは地域全体を対象とするため、ブランドコンセプトの策定やコミュニケーション戦略の立案がより困難になります。地域の多様な魅力を一つのコンセプトにまとめるためには、時間をかけて議論を重ね、地域全体の共通認識を形成することが重要です。
3.資源が多様であることと同時に、制約も多くなりがち
地域には、歴史、文化、自然、産業など、多様な資源が存在しますが、同時に予算や人材などの制約も存在します。これらの資源を効果的に活用し、制約を克服するためには、地域内外の連携や協力体制の構築が不可欠です。例えば、専門家のアドバイスを受けたり、他地域の成功事例を参考にしたりすることで、限られた資源を最大限に活かすことができます。
地域ブランディング推進のポイント
地域ブランディングを成功させるために、大切にすべき視点が3つあります。
1.地域独自の個性を最大限に活かす
他の地域にはない、その地域ならではの強みや魅力を明確にし、それを最大限に活かしたブランド戦略を展開することが重要です。
歴史や文化
古くからの伝統や風習、歴史的な建造物、地域に伝わる物語などを活用します。例えば、歴史的な建造物を観光資源として活用したり、伝統工芸品を現代風にアレンジした商品を開発したりすることで、地域の魅力を発信することができます。
自然環境
美しい風景、豊かな自然、温泉や山などの観光資源をアピールします。自然体験ツアーやエコツアー、アウトドアアクティビティなどを企画することで、地域の魅力を体験してもらうことができます。
産業
地元の特産品、伝統工芸品、地場産業などをPRします。地域産品を使った料理を提供するレストランや、地場産業の工場見学ツアーなどを企画することで、地域の魅力を体感してもらうことができます。
人材
地域で活躍する人々、その土地ならではのライフスタイルなどを紹介します。地域住民のインタビュー記事やドキュメンタリー動画を作成することで、地域の魅力をより深く伝えることができます。
2. ブランドコンセプトを明確に定義する
地域ブランディングの根幹となるブランドコンセプトを明確にすることで、一貫性のあるメッセージを発信し、共感を呼び起こすことができます。
なぜ地域ブランディングを行うのか?
地域が抱える課題や、目指す未来像を明確にすることで、地域ブランディングの目的を共有することができます。
どのような地域社会を目指しているのか?
持続可能な地域社会、活気ある地域社会、多様性を受け入れる地域社会など、具体的なイメージを共有することで、地域ブランディングの方向性を定めることができます。
地域ブランドを通じて、誰に何を伝えたいのか?
ターゲット層を明確にし、彼らにどのようなメッセージを伝えたいのかを具体的に考えることで、効果的なコミュニケーション戦略を立案することができます。
3. 長期的な視点で戦略を構築する
地域ブランディングは、短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点で持続可能な地域社会を築くための取り組みです。
10年後、20年後、どのような地域になっていたいのか?
将来の地域像を明確にすることで、地域ブランディングの目標を具体化し、長期的な視点で戦略を立てることができます。
そのために、どのようなブランドイメージを構築していくべきか?
将来の地域像に合致したブランドイメージを構築することで、地域ブランディングの効果を最大化することができます。
地域ブランディングの具体的な進め方
では、具体的にどのように地域ブランディングを進めていけばよいのでしょうか。大きく7つのステップで進めることが効果的です。
ステップ1:実行チームの編成
地域ブランディングを推進する実行チームを編成します。行政、企業、住民、NPOなど、多様なメンバーで構成し、それぞれの強みを活かせる体制を構築しましょう。リーダーシップを発揮できる人材や、マーケティングやブランディングの専門知識を持つ人材を確保することも重要です。
ステップ2:目的と目標の設定
地域ブランディングの目的と具体的な目標を設定します。目標は、数値化し、達成状況を測定できるようにすることが重要です。例えば、「観光客数30%増加」「移住者数年間100人増加」「地域産品の売上高2倍増」など、具体的な数値目標を設定することで、進捗状況を把握しやすくなります。
ステップ3:現状分析と課題抽出
SWOT分析などの手法を用いて、地域の現状を分析し、強み、弱み、機会、脅威を洗い出します。強みは最大限に活かし、弱みは克服し、機会を捉え、脅威を回避するための戦略を立案しましょう。地域の現状を客観的に把握することで、効果的な地域ブランディング戦略を立てることができます。
ステップ4:ターゲット層の選定とニーズ分析
地域ブランドのターゲット層を明確にし、そのニーズを調査・分析します。アンケート調査、インタビュー調査、SNS分析など、様々な手法を活用して、ターゲット層の興味関心や価値観を把握しましょう。ターゲット層のニーズに合致したブランドメッセージやコンテンツを発信することで、より効果的な地域ブランディングを実現できます。
ステップ5:ブランドコンセプトの策定
現状分析とニーズ分析の結果を踏まえ、地域ブランドのコンセプトを策定します。コンセプトは、地域の魅力や個性を端的に表現できるものが理想的です。キャッチコピーやロゴ、キービジュアルなども同時に検討し、地域ブランドの世界観を表現しましょう。
ステップ6:具体的な施策の立案と実行
ブランドコンセプトに基づき、具体的な施策を立案・実行します。イベント開催、商品開発、情報発信(ウェブサイト、SNS、PR動画など)、インフラ整備など、様々な施策を組み合わせることが効果的です。それぞれの施策の目的や目標を明確にし、効果測定を行いながら、PDCAサイクルを回していくことが重要です。
ステップ7:効果測定と改善
施策の実施状況を定期的に評価し、改善点を見つけ出し、より効果的な地域ブランディングを目指します。PDCAサイクルを回し、継続的に改善していくことで、地域ブランドは成長し、より多くの人々に愛される存在になります。
地域ブランディングの成功事例に学ぶ
キャラクター・スローガンを活用した事例
事例1:くまモン(熊本県)
熊本県のPRキャラクターとして誕生した「くまモン」は、その愛らしい姿と親しみやすいキャラクター性で全国的な人気を獲得し、熊本県のPRに大きく貢献しています。
ライセンスフリー戦略
くまモンのイラストやデザインを、企業や個人が無料で使用できるライセンスフリー戦略を採用。これにより、くまモングッズが全国に広がり、認知度が飛躍的に向上しました。企業にとっては、くまモンを活用することで、商品やサービスの認知度を高め、販売促進につなげることができるというメリットがあります。
地域との連携
くまモンは、熊本県の特産品や観光地と連携したPR活動も積極的に行い、地域経済の活性化に貢献しています。例えば、くまモンがデザインされたパッケージの商品は、観光客に人気のお土産となっています。
事例2:ないものはない(島根県海士町)
島根県海士町の「ないものはない」というスローガンは、一見すると自虐的な表現ですが、実は「何でも揃っている」という逆説的な意味合いを含んでいます。このスローガンは、海士町の豊かな自然や文化、そしてそこに住む人々の温かさを表現しており、多くの人の心を捉えました。
地域資源の再発見
「ないものはない」というスローガンは、海士町の住民が自分たちの地域を見つめ直し、その魅力を再発見するきっかけとなりました。このスローガンは、地域住民の誇りや愛着を育み、地域活性化への意欲を高める効果をもたらしました。
多様な情報発信
海士町は、「ないものはない」というスローガンをウェブサイト、パンフレット、ポスター、イベントなど、様々な媒体で発信しています。これにより、海士町のブランドイメージを確立し、全国的な知名度を高めることに成功しました。
農畜産物・食べ物をブランド化した事例
事例3:宇都宮餃子(栃木県宇都宮市)
宇都宮餃子は、地域に根付いた食文化を活かした地域ブランディングの成功例です。餃子専門店が集まる「餃子通り」や、毎年開催される「宇都宮餃子祭り」など、餃子を軸にした観光戦略が功を奏しています。
B級グルメから地域ブランドへ
宇都宮餃子は、もともと地元住民に愛されるB級グルメでした。しかし、その美味しさと手軽さがメディアで取り上げられるようになり、全国的な知名度を獲得しました。
餃子文化の創造
宇都宮市は、餃子をテーマにした様々なイベントやキャンペーンを実施し、餃子文化を創造してきました。これにより、宇都宮市は「餃子の街」としてのイメージを確立し、観光客誘致に成功しています。
観光・体験を軸にした事例
事例4:農村民泊(大分県安心院町)
安心院町では、「農村民泊」という独自の宿泊スタイルを確立し、都市住民に田舎暮らし体験を提供しています。農作業体験や地元食材を使った料理など、ここでしか味わえない体験が人気を集めています。
本物の農村体験
安心院町の農村民泊は、観光客向けのイベントではなく、実際の農村の生活を体験できることが特徴です。農家民宿に泊まり、農作業を手伝ったり、地元の人々と交流したりすることで、都市住民は田舎暮らしの魅力を肌で感じることができます。
リピーターの獲得
安心院町の農村民泊は、リピーター率が高いことでも知られています。一度訪れた人が、再び訪れたくなるような温かいおもてなしと、ここでしかできない体験が、リピーター獲得の鍵となっています。
事例5:八王子芸術祭(東京都八王子)
八王子市という地域の魅力の一つとして「芸術」というキーワードが存在していましたが、長年音楽祭を実施していたにもかかわらず、八王子市民を対象とした世論調査にて、芸術活動を行っている人口が年々横ばいになっていました。
巡回型の芸術祭の実施
そこでこれまで行っていた「音楽祭」というかたちを変更し、『八王子芸術祭』は、東京都八王子市域の広さを活かし、市内5つの区域で2年ごとに開催する、地域発掘型・巡回型の芸術祭が企画されました。
一貫したコンセプトでの体験を提供
当社では芸術祭のコンセプトを策定から支援し、それらをもとにアウトプットを設計。パンフレットやLPにも展開を行い、一貫した訴求を行いました。その結果、来場者数が目標数値を達成、参加いただいたアーティストや来場者からも好評の声を多数いただきました。
取り組みの詳細は以下のページで紹介しています。
ブランディングで多く人に愛される地域へ
地域ブランディングは、地域が抱える課題を解決し、持続可能な地域社会を築くための重要な取り組みです。地域の魅力を最大限に引き出し、多くの人々に愛される地域ブランドを創造することで、地域は新たな活力を得ることができるでしょう。
地域ブランディングは、地域を愛する人々によって創り上げられる、未来への投資です。
さあ、あなたの地域の魅力を世界に発信しましょう!