「求職者をファンにする」採用ブランディングの考え方とは

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ブランディングにはさまざまな種類がありますが、その中の一つとしてあげられるのが「採用ブランディング」です。「採用ブランディング」とは採用において企業のブランドを伝えることで魅力を伝えることであり、これによって企業のブランドに共感した採用応募者の数を増やしたり、離職率を低減する方法です。第11回のこの記事では「採用ブランディング」について、どのように取り組めばいいのかを詳しくご説明します。

こんな人におすすめ

  • 競合他社との人材獲得競争に悩んでいる経営者の方
  • 採用数が伸び悩んでおり、他社と差別化を図りたい人事責任者
  • 内定を出しても辞退する人が多く、人材確保に困っている人事責任者
  • ビジョンのミスマッチによる離職率が高いことに悩んでいる人事担当者

読んだ後に身につくこと

  • 採用活動を強化するために行う具体的な方法
  • 採用活動にブランドコアを反映する方法
  • 一貫したブランド訴求のために重視すべきポイント

採用ブランディングとは一体何か

先述した通り、採用ブランディングとは、企業のブランドコアを伝えることで「この会社で働くことは魅力的だ」と感じてもらいファンになってもらうための戦略と言えます。

近年採用ブランディングが重視されている理由には、現代の求職者にあたるZ世代の考え方が大きく影響しています。Z世代の特徴としてあげられるものは主に以下となります。

  • 多様性を重視している
  • 環境問題に高い関心を持っている
  • 「誰と働くか」を重視する
  • 企業にも社会問題への取り組みを求める

これらに対して、企業側がどのような姿勢を見せているかを求職者であるZ世代にアプローチし、それが求職者の考えにマッチすれば応募に繋がりやすくなります。

また社会的にも、モノと金だけでなく人も会社の資産として捉え、投資の対象とするべきである、という「人的資本経営」が重視されています。採用においても企業は自社のビジョンやミッションに共感し長く働いてもらえる社員により多くの投資をしたいと考えていると言えます。

このようなZ世代のニーズと社会のトレンドがある今だからこそ、採用ブランディングを見直すことの重要性が高まってきているのです。

採用ブランディングを行う上でのポイント

採用ブランディングとは企業ブランディングの一種でもあります。そのため、ブランディングを行うにあたって非常に重要な「ブランドコアの定義」はここでも見逃すことはできません。このブランドコアがしっかりと定義されていないと活動の軸がぶれ、いくら求職者に向けたメッセージを発信しても無駄になってしまう可能性があります。また、定義されていても採用活動に反映しないままなんとなくで採用を続けていると、会社のブランドコアにそぐわない人材を採用してしまい、結果的に社風が乱れ、社内の雰囲気が悪くなったり業務へ影響を与える可能性もあります。

出典:『手にとるようにわかる ブランディング入門』(金子大貴著、 一色俊慶著)

さらに、社内へのブランドコアの浸透が弱く、面接などの場面で発信しているメッセージに矛盾が生じてしまうケースも多くあります。採用ブランディングにあたっては、人事含めた社員の一人一人がブランドコアを理解した上で採用活動を行うことも重要です。

採用ブランディングに取り組むメリット・デメリット

次に、採用ブランディングを実施する上でのメリット・デメリットを紹介します。
メリットとしてあげられるのは主に以下のようなものがあります。

  1. ブランドコアに共感した社員の入社
  2. 採用コストの減少
  3. ブランドコアに共感した社員の定着率の向上

ブランディングを意識し一貫した採用活動を続けることで、ブランドコアに共感した自社の未来のブランドを担う社員の入社の可能性が高まります。

また、それに伴って離職率も低下するため、それまでかかっていた人員補充のためのコストがカットされ、業務効率を上げることにつながります。そして、会社のブランドコアをしっかりと打ち出しそれに深く共感したファンである人材を獲得することができた場合、その後も長く会社に在籍してくれる確率は高くなります。

このようにメリットの多い採用ブランディングですが、実施を検討すると以下のデメリットもあげられます。

  1. 新しい取り組みとなるため手間・時間がかかる
  2. 人事側がブランディングの理解を深める必要がある
  3. 場合によっては、社員を巻き込んだインナーブランディングを実施する必要がある

採用ブランディングの方向性を決定しメッセージを発信する中で、それぞれにおいて時間とコストがかかることが予想されます。特に人事や面接官である社員が採用ブランディングの重要性を理解できていなければ、まずはそこの認識を共有するところからスタートしなければいけません。

ここからは、かかるコストや時間を考えた上で採用ブランディングに失敗せずしっかりと結果につなげるためにはどうすればいいのかをご説明します。

採用ブランディングの進め方

自社のMVVを整理する

まず始めに重要なのが、MVVとそれに基づくブランドコアを設定しているかどうかです。以下がしっかりと設定されていない場合は、企業ブランディングを視野に入れ、ヒアリングや調査・ワークショップなどを通してMVVを策定するところから実施するのが良いでしょう。

採用ブランディングの目的を設定する

ブランドコアが設定されたら、採用ブランディングの目的を設定する必要があります。先ほどまでの説明を踏まえた上で、この採用ブランディングのゴールを設定してみましょう。

求める人物像を洗い出しペルソナを作る

MVVに伴って自社がどのような人材を求めているのかを設定します。ノウハウももちろんですが、目指す自社の姿に向けてどのような人材であればそこにマッチしそうかを考えることが重要です。この時に、採用したい人材のペルソナを社内で議論しながら作り上げることでより具体的にイメージしながら進めることができます。
弊社では、求職者ペルソナの設定をはじめ、実際の求職者への意識調査や現状の採用サイトに対するユーザー評価を実施することもあります。
例えば「就職活動における企業サイトの重要度は?」といった質問や、競合企業のサイトを並べ「この中から採用サイトだけを見て最も興味を持った企業はどこですか?」「その理由はなんですか?」という質問を行うことで、求職者のインサイトを把握。それをもとに現状の採用サイトなど、コミュニケーション施策の改善にも反映していきます。

↑採用ブランディング案件において弊社で実際に作成したペルソナ
↑求職者への意識調査
↑求職者による採用サイト評価

発信するメッセージやコンテンツを決定する

ペルソナが設定できたら、求める人物像に響くメッセージやコンテンツを検討し、作成します。とりあえず採用サイトをリニューアルし社員のインタビューを載せる、という考えではなく、ペルソナが自社のファンになり応募したいと思えるためには何が必要か、を考えることが重要です。
このフェーズにおいて重要なのがカスタマージャーニーマップになります。

↑採用ブランディング案件において弊社が実際に作成したカスタマージャーニーマップ

カスタマージャーニーマップを作成する上で大切なのは、ペルソナの行動をより深堀すること。例えばサイトへの訪問にあたっても、初めてサイトを見た時・2回目以降・内定を取得した後の3つの状況では、求めている情報が異なるためサイトの回遊の仕方も変わります。
このように、ユーザー行動を軸にカスタマージャーニーマップを作成し、サイト内のコンテンツを検討することが大切です。

採用活動の開始

採用活動の中でも面接の場は採用ブランディングにおける大事なフェーズとなります。面接官が話す内容と会社が打ち出している採用メッセージが矛盾していれば、求職者は不審に思い、内定辞退に繋がるかもしれません。逆に、面接官の発するメッセージに深く共感し、それまではあまり興味を持っていなかった求職者がファンとなる可能性もあります。採用ブランディングの重要性を理解し、ここまでのポイントと流れを社員がしっかりと把握した上で採用を進めることが大切です。

また、自社のブランドコアを伝えるだけでなく、ブランドコアに合っているかを見極める質問設計も重要です。例えば、自社のバリューとして「挑戦」を掲げていた場合は求職者が今までどのような挑戦をしたのか、そしてそれが自社のビジョンとマッチしているか?などを検証することが大切です。

さらに面接でのやりとりでは、求職者からも評価をされているという考え方が必要です。実際に過去にも面接官が高圧的な態度をとったことが、面接を受けた求職者によってSNS上に公開され、その企業の評価が著しく下がったという事例がありました。企業側の対応が、ブランドコアに沿っているかを見極められている場面として捉えることもポイントです。

採用活動の検証と改善

採用選考が終了したタイミングで次期の採用活動に向けて改善すべきポイントを洗い出し、改善方法を検討します。実際の応募数やサイト内のアクセス数などの数値の他にも、説明会でのアンケートや質疑応答で集まったリアルな声をもとに改善に繋げることができます。ブランディングと同じく、採用ブランディングには終わりはありません。市場や社会情勢が移り変わることを前提に、定期的な検証・改善を繰り返す必要があります。

以上の流れで採用ブランディングは進んでいきます。
弊社でも採用ブランディングのご相談をいただき、ブランドコアの設定を一からお手伝いさせていただくことや、採用サイトのリニューアルに基づいて大幅にメッセージを作成し直すという事例がありました。ブランディングと同じく、この手順は自社の状況によって異なります。自社ではどこまで取り組めているのか、何が必要なのかを見極めた上で手順を設定するのが良いでしょう。

実施する具体的な取り組みの例をいくつか挙げると、企業サイト内に採用サイト / 特設ページの設置やオウンドメディアの立ち上げ、採用動画の作成などがあります。また、採用ターゲットである20代とのタッチポイントとなるSNSの立ち上げも有効です。Instagramを活用し、広告配信や、社内や現場の様子を投稿して社風を伝えることもできます。
このようにさまざまな方法で、会社ならではの魅力ややりがいを発信することが可能です。

弊社での採用ブランディングの事例はこちら

まとめ

採用ブランディングには多くの時間と手間がかかりますが、同時に未来の自社がどうあるかにも関わってくる重要な活動となります。
離職率が高い、新卒・中途採用の応募者数が少ない、若手がなかなか定着しない、というお困りごとを抱えている企業は、ぜひこの記事を参考に採用ブランディングに踏み出してみてください。

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【参考文献】
『手にとるようにわかる ブランディング入門』(金子大貴著、 一色俊慶著)

ディレクション 村山貴彦 
株式会社 大伸社コミュニケーションデザイン Webプランナー / ディレクター。ブランドをコアとしたコミュニケーションの企画とディレクションを行う。大手上場企業から中小企業までのブランディングプロジェクト、Webサイト企画・開発ディレクション支援、SEO支援などのブランディングコミュニケーション支援を実施。
執筆 吉村英珠
株式会社 大伸社コミュニケーションデザイン 2022年度新卒入社で、現在プランニングチームに所属。さまざまな案件に携わりながら、ブランディングの基礎を勉強中。このブログの執筆を通してよりブランディングへの理解を深め、事業や企業のブランディング案件をお手伝いできるようになっていければと思います。
監修者情報 金子大貴

株式会社 大伸社コミュニケーションデザイン チーフ ブランディングディレクター コピーライターとして、広告・宣伝のクリエイティブ開発の経験を経て、ブランディングに特化したプランニング・コンサルティングを担う現職へ。大手上場企業から中小企業まで、企業のリブランディングプロジェクト、新製品のコンセプト開発、ブランド浸透戦略立案などの幅広い業種業態でのブランディング支援を実施。著書に「手にとるように分かるブランディング入門」(2022年/かんき出版)。

Topics: ブランディング


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