ミッション・ビジョン・バリューとは?事例から作り方までご紹介

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ブランドコアを定義付けるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)について解説します。

第2回では、ブランドコアを定義付けるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)について解説します。企業には共通の価値観が存在しており、それを可視化したものとして、企業理念やコーポレートスローガンなどがあります。こうした共通の価値観を共有するのに効果的なフレームワークの一つがミッション、ビジョン、バリューです。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは?

ミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)とは、コーポレートブランドを築く上で重要なブランドコアの要素の一つで、そのブランドに持ってほしい独自のイメージを定義付けるといった目的があります。それぞれの役割は以下の通りです。

  • ビジョン(Vision):ブランドとしてどんな未来を作っていきたいか【Where】
  • ミッション(Mission):ビジョンを叶えるために何をすべきか【What】
  • バリュー(Value):ミッション・ビジョンを実現するために企業が大切にする価値観や行動指針【How】

企業や組織によって、この要素の順番が異なっていることも多々あるため、混乱を招くこともあるかもしれません。弊社で企業ブランディングを手掛ける際は、その企業がどんな世の中を作っていきたいのか?(ビジョン)」から、「そのためにはどんな姿になっていなければならないか?(ミッション)」、そして「そこで働く人たちが大切にしなければならない信念は?(バリュー)」という順番を意識し、作成しています。

本記事の後半では、近年影響力を増している要素のパーパス(Purpose)についても詳しく紹介していきます。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の必要性

このMVVというフレームワークを活用し、新たにMVVを定め、組織に浸透させることにより、社内・社外のどんな人々が見ても、その企業がどんな志を持って、どんな価値を提供するのかを明確に示せるようになります。また、社員のモチベーションを高め、採用においても優秀な人材を集めやすくなるというメリットがあります。つまりMVVによって、事業活動から採用広報まで幅広い取り組みに一貫性、軸が生まれ、このようなブランディング活動を積み重ねることで、独自のブランドとして成長していくのです。

また、コーポレートブランディングではなく、製品(商品)/ サービスブランディングの実施においても、顧客がその製品について「どんな企業が、なぜ提供するのか」を理解することで、企業との信頼構築や購買に関する判断に良い影響を与えます。BtoBや中小企業においては、製品(商品)/ サービスとコーポレートブランドが、BtoCに比べより密接な関係にあります。そのため、製品(商品)ブランディングにおいては、具体的なブランドベネフィット(主に機能的価値や情緒的価値)の設計を優先しつつも、企業としての志もセットで設計することで、単なるブランドベネフィットの違いだけでない、独自のブランドとして確立できる可能性が期待できます。

こうした背景から、経営者含むマネジメント層や人事評価を定める人事担当者にとっても、的確に、そして迅速に選択できる基準として、MVVの策定が活発化しているのです。

いち早くミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の重要性を語ったドラッカー

MVVの重要性に早くから言及していたのが、日本でも人気の高い経営学者であるピーター・F・ドラッカー氏です。遡ること1965年の自身の著書『現代の経営』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)の中で、ミッションやビジョンなどの言葉こそ出てきませんが、ドラッカーは「成功を収めている企業は、『われわれの事業は何か』を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによって成功がもたらされている」とMVVに繋がる言及をしています。

優れたミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の見分け方

MVVを考えるにあたって最初の課題として多く見受けられるのが、たとえば「社会に貢献する」「お客様第一」「社員を幸せにする」という言葉に集約されてしまうパターンです。なぜなら、これらはある意味この世のすべての企業に当てはまる内容になっているからです。

そこで優れたMVVとなりうるポイントは、以下のように考えられます。

  • その会社らしさがあるか
  • 具体的にイメージできるか
  • 心が動くか(ワクワクするか)

日本のトップブランドであるソニーは、家電製品を軸に多角化事業を行う中で、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」と掲げていました。顧客に対して「感動で満たす」という多様なエンターテインメントを提供してきた企業だからこそできる、社会に対する貢献の姿勢や存在意義だと言えます。

日本のトップブランドのミッション・ビジョン・バリュー(MVV)はどうなっているのか?

では具体的にMVVとはどんなものなのか、有名企業の事例を見て考えてみましょう。

株式会社リクルート

  • ビジョン :「Follow Your Heart」
  • ミッション :「まだ、ここにない、出会い。/ より速く、シンプルに、もっと近くに。」
  • バリュー :「新しい価値の創造」「個の尊重」「社会への貢献」

こちらのMVVを題材に、順を追って分析してみます。

まずビジョンの「Follow Your Heart」では、「一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生」を企業の目指す世界観としています。そこに対して、ミッションの「まだ、ここにない、出会い」によって、リクルートは個人と企業をつなぎ、より多くの選択肢を提供することでミッションとして掲げている役割を果たしてきました。リクナビ、じゃらん、スタディサプリ、タウンワークなど一見バラバラにみえるような幅広い事業展開をしていますが、それは、ミッション(≒パーパス)にある「まだ、ここにない、出会い。」を作るビジネスを社会の様々な領域で行うからと言えます。そして、バリューの1つである「新しい価値の創造」では、「世界中があっと驚く未来のあたりまえを創りたい」といった、ミッションを達成するための行動指針を設定しています。

トヨタ自動車株式会社

  • ビジョン「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」
  • ミッション「幸せを量産する」
  • バリュー「トヨタウェイ」

トヨタと言えば、「自動車の会社」を想起する方が多いと思いますが、彼らは、車ではなく、幸せを量産することこそを、ミッション(≒パーパス)としています。また、なぜ自動運転を代表とする新しい技術の開発に立ち向かっているのかと言えば、新しい車を作りたいのではなく、車をはじめとした可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える挑戦をしているためと言えます。トヨタがなぜ、常に新しい挑戦をし続けられるのか、ブランドとしての強い軸を持ち続けられるのかは、こういった明確なビジョンやミッションが存在しているからでしょう。

このように、ホールディングス化する企業も増えている中、MVVはブランドと事業をつなぎ、その会社ならではの価値を生み出すことから、その重要性が次第に増しています。これらの事例に挙げた企業に見られるように、ブランド価値が高いとされる企業は、必ずしもMVVという形でないとしても、その要素としてMVV を含んだブランドの志を明確化しているのです。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の作り方

ここからは、具体的なMVVを構築する主な手法を解説します。

MVVは、企業の従業員の想いがベースとなるため、従業員に対してワークショップの機会を設け、コミュニケーションを重ね、理解を深めながら創り上げていくものになります。以下のように、ワークショップは多くの場合、MVVに対応する3つのフェーズに分けて進行します。

  • ビジョン「どんな未来を作りたいのか?」について議論
  • ミッション「ビジョンを実現するために、果たすべき使命は何か?」について議論
  • バリュー「ミッション・ビジョン実現のために私たちが大切にすべき価値観」について議論

ビジョン「どんな未来を作りたいのか?」について議論

ビジョンとは、ブランドが考える夢であり、将来の自社と社会の理想像です。そのため、ビジョンは経営理念に近く、未来への約束であり、新しい変化の創造であり、自らを変革する原動力となるものです。

ここで掲げたことは、ハードルが高いほど世の中に刺激を与えることができますが、それをステートメントとして世に出すとなると二の足を踏む企業が多く、つい議論が停滞しがちです。

すべてのワークショップにおいて言えることですが、ビジョンを議論するワークショップで特に重要なのが「否定をしないこと」です。「ワクワクする未来を考えるワークショップ」として、現実から一旦切り離し、本来どんな未来を実現できたらよいか、従業員が喜ぶか、子どものような視点で考えることが効果的です。

これまでの考えはどんなブランドになりたいかだが、これからはなぜ社会に存在し、どんな社会にしていきたいか?
出典:『手にとるようにわかる ブランディング入門』(金子大貴著、 一色俊慶著)

この実践的な思考法として有効なのが「バックキャスティング思考」です。これは、現在から未来を考えるのではなく、まずは、現在を度外視して、「未来のあるべき姿」「未来起点」で目標を考える方法です。そうすることで、より魅力的なビジョンが生まれやすくなるのです。

バックキャスティング思考は、現在から未来を考えるのではなく、まずは、現在を度外視して、「未来のあるべき姿」「未来起点」で目標を考える方法です。
出典:「バックキャスティング」とは, 視覚会議

ビジョンの方向性が見えてくれば、この後のミッション・バリューの設定は比較的、難易度は下がります。

ミッション「ビジョンを実現するために、果たすべき使命は何か?」について議論

ここでは設定したビジョンに対して、「企業として何を果たさなければならないのか?」「どんな役割を果たす必要があるのか?」を話し合います。

バリュー「ミッション・ビジョン実現のために私たちが大切にすべき価値観」について議論

バリューは、日々の具体的な行動の際に参考とする価値観としてのキーワードを抽出し策定していきます。また、バリューは複数のキーワードからなることが多くあります。

このように、順を追って作成し、MVVそれぞれのつながりを意識することで、全体での一貫性が出て社員の心に響く内容になります。以上のワークショップを終え、MVVのワークシートが埋まっていれば、企業としての「志」の定義は完了です。

このように3つの要素を言語化し、再整理することで、企業の果たすべき使命や存在意義、目指すべき未来を明文化でき、後々の中期経営計画策定に生かすこともできます。そして大切なのは、策定して終わりではないということです。創業時に策定したMVVに固執する必要はなく、社会の変化や経営方針が変わるタイミングなどに合わせて、中長期的に評価と見直しを行いましょう。

ミッション・ビジョン・バリュー重要視されるパーパス

冒頭で言及したように、近年ではMVVの根底にある、パーパス(Purpose)という考え方も認知され始めています。パーパスの役割は、「そのブランドがなぜ存在するのか?」という存在理由【Why】に該当します。

パーパスが問われるようになったことは、社会環境や自然環境が大きく変化しており、自社の利益だけを追求することが場合によっては批判されるようになったことにあります。また、自社の発展も自力だけでは難しく、多くのステークホルダーと共創しながら共存共栄を図るほうが現実的な道筋となってきていることも要因の一つです。

企業パーパスは社会的責任の変化と市場環境の変化を考慮していく必要がある
出典:『手にとるようにわかる ブランディング入門』(金子大貴著、 一色俊慶著)

こちらも決まったテンプレートがあるわけではなく、企業によってパーパスを含んだ4つの要素すべてを定義するパーパス・ミッション・ビジョン・バリュー(P-MVV)の場合や、パーパスにミッションの要素を含め、パーパス・ビジョン・バリュー(PVV)のような3つの要素で構成されるパターンなど様々です。

パーパスを定めている日本のトップ企業

では具体的にミッション・ビジョン・バリューにパーパスを含めたものはどんなものなのか、有名企業の事例を見て考えてみましょう。

ソニー株式会社

ソニーでは「Sony’s Purpose&Values」というページに「Purpose(存在意義)」と「Values(価値観)」の2つが表明されて います。

  • パーパス :「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
  • バリュー:「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」

ソニーは、各ブランド(≒グループ企業)の独自性を重んじているため、さらにその上位概念としてパーパスを位置づけ、ミッションとビジョンについては各グループ企業で掲げるという方針にしたということでしょう。バリューについては価値観や行動規範なので、これはむしろグループ全体で統一されていないと都合が悪いと言えます。このように、ブランドの戦略により、P-MVVでも多少カスタマイズして設計するのが実情です。

パーパスの作り方

パーパスはMVVの根底となる要素のため、パーパスを策定する場合は、MVVより先に考えをまとめるのが一般的です。

パーパス「ブランドとしての存在意義」について議論

議論をする上で、いきなり「ブランドとしての存在意義は何でしょう?」とメンバーから意見を募ってもなかなか、答えにくいと思います。そんなときは、核心の質問に至る前に、以下のような少し頭を柔らかくする問いを入れ、議論を活発化させましょう。

【質問 1】「あなたは、親戚の集まりに参加しています。初めて会う親戚の子ども(小学 1 年生)に『どんなおしごとをしているの?』と聞かれました。あなたは一言でどう答えますか?」

これは子どもに説明することで、自身の仕事を可能な限り抽象化することを目的にしています。「◯◯を助ける仕事」「◯◯をなくす仕事」などに自身のブランドを転換することで、その存在意義のヒントを得る問いです。

こうした問いを経ていよいよ、「私たちのブランドはなぜ、社会に存在しているのか?」「ブランドとしての存在意義とは?」というパーパスを言語化していくような問いに入っていきます。

まとめ

本記事では、MVVとパーパスの必要性から策定方法までご紹介しました。

「企業(ブランド)として社会の中でどんな存在意義をもっているのか」を具体的に社内外に発信し、実行していくことで、社長、経営陣そして従業員のモチベーションが高まり一体感が生まれます。同時に、社外に対しても共感や愛着を持ってもらいやすくなります。そして、第一に「自分たちが何をしたいのか?」を考えるきっかけにもなります。製品やサービスの真似はできますが、この「想い」は誰にも真似できず、だからこそ企業の競争優位性になり得ます。情報やものが溢れ、他社との差別化に悩みを抱えている企業は多いはずです。その解決の道筋として、創業時からの自社にしかないブランドイメージを形作るべく、P-MVVの策定を検討してみてはいかがでしょうか。


【参考文献】

『手にとるようにわかる ブランディング入門』(金子大貴著、 一色俊慶著)

1965年.『現代の経営』.ダイヤモンド社, (ピーター・F・ドラッカー著、上田惇生訳)

ソニー株式会社HP:ソニーグループについて
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/

株式会社リクルートHP:ビジョン・ミッション・バリューズ
https://recruit-holdings.com/ja/about/vision-mission-values/

トヨタ自動車株式会社HP:トヨタフィロソフィー
https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/philosophy/?padid=ag478_from_header_menu

視覚会議:「バッグキャスティング」とは
https://shikaku-kaigi.jp/pickup/backcasting/

ディレクション 村山貴彦 
株式会社 大伸社コミュニケーションデザイン Webプランナー / ディレクター。ブランドをコアとしたコミュニケーションの企画とディレクションを行う。大手上場企業から中小企業までのブランディングプロジェクト、Webサイト企画・開発ディレクション支援、SEO支援などのブランディングコミュニケーション支援を実施。
執筆 小林花
株式会社大伸社コミュニケーションデザイン 2022年度新卒入社で、現在プランニングチームに所属。BtoBを中心とした様々な案件に携わる中で、企業価値向上におけるブランディングの奥深さを感じるように。このブログ執筆を通して、私自身も理解を深めながら、ブランディングの重要性をお伝えできたらと思います。
監修者情報 金子大貴

株式会社 大伸社コミュニケーションデザイン チーフ ブランディングディレクター コピーライターとして、広告・宣伝のクリエイティブ開発の経験を経て、ブランディングに特化したプランニング・コンサルティングを担う現職へ。大手上場企業から中小企業まで、企業のリブランディングプロジェクト、新製品のコンセプト開発、ブランド浸透戦略立案などの幅広い業種業態でのブランディング支援を実施。著書に「手にとるように分かるブランディング入門」(2022年/かんき出版)。

Topics: ブランディング


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