宅配ボックスにおけるオープンイノベーションとCSR

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ネット通販の急激な拡大は、人々の暮らしを便利にした半面、様々な社会問題も引き起こしています。とりわけ、宅配便の大幅な増加によるドライバー不足は深刻です。

そんな中、身近でかつ新しい「宅配ボックス」の開発に取り組まれたケースがありましたのでご紹介します。複数の企業がアイデアやノウハウを持ち寄って革新的なビジネスを作る「オープンイノベーション」や「企業活動自身による社会貢献に直接結び付ける」という、今どきのCSRという観点からも興味深い事例かと思います。

 

大手ネット通販Amazonさんの荷物の配送を多く担当するヤマト運輸さんは人手不足も相まって、労働環境の悪化と収益低下に直面。物量の増加もさることながら不在時の再配達が大きな問題となっています。これを受けて、荷受け量の総量抑制を検討、昼時間帯の時間指定便廃止検討、値上げ方針の表明など矢継ぎ早に施策を打ち出していますが物流サイドの努力のみでは解決は難しそうに感じられます。

 

国土交通省が2015年に発表した調査資料によると、再配達率は19.6%だとか。国は再配達による社会的損失を次のように見積もっています。

 

  • 営業用トラックの年間排出量の1%に相当する年約42万トンのCO2が発生(スギの木の年間CO2吸収量で換算すると、山手線の内側2.5個分の面積に相当)
  • 年間約1.8億時間・年約9万人分の労働力に相当

【参考】

宅配の再配達の発生による 社会的損失の試算について
http://www.mlit.go.jp/common/001102289.pdf

 

1.8億時間に人件費をかけると数千億円に相当することでしょう。これは、ネット通販の成長と比例して年々増えていくことが予想されます。

 

この再配達問題に対してもっとも効果的とみなされているのが宅配ボックスの設置です。不在時でも荷物が受け取りが可能な宅配ボックス。商品と注文時間帯によっては、注文当日の帰宅時に品物を受け取ることも可能です。

 

2017年217日、大和ハウス工業株式会社さん、株式会社ナスタさん、日本郵便株式会社さんの3社は宅配ボックスの普及を目指して宅配ボックスの共同開発と普及促進に取り組むとの記者会見を開きました。

 

「・・・現在、ナスタはお客さまの生活をより豊かにする「大型メール便対応ポスト」や「宅配ボックス」の革新に挑戦し、日本郵便は配達の効率化による配送サービスの質の向上とドライバーへの業務負荷の軽減を目指していますが、その取り組みに対し、大和ハウス工業が賛同、デザイン提案と商品化に協力し、越谷レイクタウン 戸建分譲住宅地『セキュレアシティ レイクタウン美来(みく)の杜』において戸建住宅業界で初めて導入することが決まりました。・・・」

※プレスリリースより引用

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000020389.html

 

マンションでは設置が進んでいる宅配ボックスですが、戸建て住宅へはまだまだ普及していないのが現状です。こうした再配達抑制に向けた異業種間の取り組みは2013年頃から始まっておりますが、これからは戸建て住宅への普及が鍵となってくるようです。

 

さて、CSRの国際指針、ISO26000では企業の社会的責任を次のように定義しています。

 

組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任:

  •  健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展への貢献
  •  ステークホルダーの期待への配慮
  •  関連法令の遵守及び国際行動規範の尊重
  •  組織全体に統合され、組織の関係の中で実践される行動

  注1:活動には、製品、サービス及びプロセスを含む

  注2:関係とは組織の影響力の範囲内での活動を指す

 

従来、日本では、CSRについて一種の慈善活動や、事業収益の一部を社会に還元することと解釈されてきた向きもありますが、近年では、本業における社会貢献がより重視されてきているようです。その流れから、CSRよりもCSVCreating Shared Value共通価値の創造)という考えが注目されています。

 

【参考】 

「CSVとCSRの違いは?ネスレも取り組むポーター教授の差別化戦略の本質」

http://www.sbbit.jp/article/cont1/29352

 

宅配ボックスを開発する株式会社ナスタさんは、老舗の建築金物メーカーとして建築業界ではよく知られている存在です。同社の取り組みはオープンイノベーションの好例として、企業の社会課題解決に向けた取り組みとして、また、戸建て住宅へ宅配ボックスを普及(コモディティ化)させる挑戦として注目に値するものではないでしょうか。

 

Topics: コラム


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