テレプレゼンスが変える未来の職場

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こんにちは、企画制作の後藤です。

 

今回はカルフォルニア州のパロアルト市(シリコンバレー北部、スタンフォード大学やテスラモーターなど多くの最先端企業や大学のある街)にあるBeam Storeというショップに行ってきましたので、そのショップやそこで扱われている製品についてレポートしたいと思います。

 

Beam StoreはBeamというテレプレゼンスデバイスを販売しているショップです。テレプレゼンス、といってもほとんどの方は何のことかわからないと思いますので、まずは下の写真を見てください。

 

Beam1.png

 

Beamとは、人の肩ぐらいの高さのモニターに、タイヤがついたデバイスで、テレビ会議システムのように、遠くにいる人の顔や声を、中継することができます。従来のテレビ会議システムと大きく違う点は、離れたところからでもラジコンのように操作することで移動させることができるという点です。移動できる必要なんてないのでは、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この移動できるというたったひとつの事実は、テレビ会議システムの持つ役割、印象を大きく変えてしまいます。

 

テレプレゼンスとはテレ(遠隔の)+プレゼンス(存在)という二つの言葉を組み合わせて作られた言葉です。言葉や映像だけではなく、存在感を遠隔で届けることができることを表しています。言葉で聞くと大げさに聞こえるかもしれませんが、実際にデバイスと対峙してみると、その言葉の意味を理解することができます。

 

それではショップを訪れた際の様子をご紹介します。パロアルトの一角にあるそのお店に入ると、そこに人の姿は見当たりませんでした。お店の人は外出中かと思いました。

 

Beam2.png

 

すると、すぐに2台のテレプレゼンスデバイスが駆け寄ってきて(?)、私を取り囲み、挨拶をしました。お店から離れた場所にいる店員が、テレプレゼンスを通して接客をしているのです。

 

Beam3.png

 

「ちょっとこっちに来てよ」と言われるままに付いていくと、そこにはモニターとキーボードが設置されていました。モニターには、今いるお店とは別の部屋の光景が映し出されており、キーボードを操作すると、その光景も移動しました。どうやら遠方に設置してあるテレプレゼンスを、このキーボードで操作できるようなのです。

 

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その後も、この方はショップの中を案内してくれました。

 

 

このお店では、ドアの開閉や、開店、閉店、施錠もすべて遠隔で行っているそうで、お客さんが商品を購入すれば、お店の奥にある倉庫が開き、製品を持って帰ることができるそうです。ショップに人がいなくても、製品のセールスから決済、受け渡しまですべてリモートで完結するようになっています。無人の店内で、テレプレゼンスが自分自身を売り込むという光景に、未来の店舗の姿を見たような気がしました。

 

ショップを訪れてみて、特に印象深かったのは、テレプレゼンスの存在感です。テレプレゼンスが近寄ってくると、見られているという感覚が強くあり、違う方向を見ていたテレプレゼンスがこちらの方を向くと、少しドキッとしてしまいます。テレプレゼンスと話すときも思わずテレプレゼンスの顔(モニター?)を見て話しかけてしまいます。ただ、人の背よりも少し低く、人の形をしていないので、実際の人と対峙しているときほどの緊張感はありません。かといってテレビ会議システムのような疎外感もないので、適度な距離を保ってコミュニケーションをとることができます。遠隔でのコミュニケーションが、心の距離を縮めるという逆説的な現象がここでは起こるのです。このテレプレゼンスはすでに、接客や在宅ワーク、支店間の会議などに活用されているとのことです。

 

興味深いのは、テレプレゼンスがほとんどモニターとタイヤだけでできており、人の形をしていないのに独特の愛着感があるという点です。遠隔操作ロボットやアシスタントロボットをどこまで人の形に近づけるべきかというのは、ロボットを作成しようとする人が、その初期にぶつかる問題です。米WIREDもそのことについて考察しています。

 

数カ月後、そして数年後、社会的なロボットはどんどん当たり前の存在になっていくだろう。しかし、その外見や行動がどうであるべきかはまだよく見えていない。「わたしたちはロボットをどのように考えているのでしょう?」と、ノーマン(※)は問い掛ける。「動物や人間のような外見で、動き回ることを期待している人もいるでしょう。その一方で、賢くて、周囲の環境を認識し、モーターやコントローラーが付いていれば十分と考える人もいます」。答えはその中間にあるのかもしれない。

(※)引用者注:ユーザビリティーの第一人者であるドナルド・ノーマン

WIRED:家庭用ロボット、成功のカギは「ちょうどいい擬人化」

http://wired.jp/2017/02/27/touchy-task-making/

 

日本ではPepperやロボホン、ASIMOなどのロボットが有名ですが、いずれも人に近い形をしています。日本人はロボットが人の形をしているべきだという考えが強いのかもしれません。

 

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 Amazonが販売している音声アシスタントデバイス「Amazon Echo」

 

一方、テレプレゼンスは人間的な要素の多くを排除しています。それでも人と対峙しているような印象が強いのは、動けることにあるのかもしれません。『ファインディングニモ』や『モンスターズインク』などのCGアニメーションで有名なピクサーという会社がありますが、そのピクサーのアニメーション作家、ジョン・ラセターがピクサーで初めて作った作品は、モノをその動きだけで生き物のように見せる、というものでした。

 

当時、ラセターはグラフィックレンダリングのモデルとして、彼の机の上にあったルクソーランプを使っていました。そして、彼はルクソーランプを生き物のようなキャラクターに変えようと決めたのです。彼は友人の幼い子供から着想を得て、ルクソーJr.というキャラクターを作りました。他のアニメーターにほんの少しのテストフレームを見せたところ、そのアニメーターは彼にストーリーを盛り込むよう促しました。ラセターはごく短いものを作るだけだからと言いましたが、そのアニメーターは、ほんの数秒であってもストーリーを語ることができるはずではなかったかと彼に伝えたのです。ラセターはその教えを胸に刻みました。

拙訳 Isaacson, Walter著『Steve Jobs』 (pp.243-244). Simon & Schuster, Inc.. Kindle 版.

 

そうです。ピクサー映画の冒頭ロゴに出てくるあのランプです。無機物をその動きだけで生き物のように見せるというアイディアは、その後の大ヒット作『トイストーリー』に繋がっています。海外では、アニメーションで培われた人間的な動きをロボットに応用することで、より親近感の湧くロボットを作ろうという試みが行われているそうです。

 

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 以前、このブログ(→記事はこちらから)でも身振りや手振りなどの非言語コミュニケーションの情報量の多さについて書きました。非言語コミュニケーションには膨大な情報が詰まっていますが、それをどのように取捨選択するかが鍵になるのかもしれません。このテレプレゼンスでは声、顔、位置、向きの情報のみ残して、手、体格、身振りといった他の情報は捨象しています。このテレプレゼンスがコミュニケーションの最適な形かどうかはわかりません。これからも試行錯誤は続くと思いますが、いずれにしてもこれからはデジタル上の非言語コミュニケーションの領域が大きく拡大すると私は予想しています。テレ上司にテレサボリしているところをテレ説教されるなんて未来も近いのかもしれませんね。

 

Topics: コラム, レポート, グローバル


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